あなたが培ってきた強みは何ですか?
就業人口半減、高齢化、稼げないイメージの農業に未来はあるのか。
先述の“なぜ農業だったのか”でも少し話したが、農業の置かれている現況は惨憺たるものだ。農業就業人口は2018年に175万で30年前に比べると1/3程度に減っている。就業者平均年齢は、67歳で就業者の68%にあたる120万人が65歳以上となっている。この数字を見て、日本の農業に希望が持てると言える人がいるだろうか。
就農人口半減と高齢化をもたらした最たる原因は、「農業では食えない、生活できない」と広く思われているからだろう。私が当時小学校6年の長女に「お父さんは会社を辞めて、農業やるからね」と初めて告げたときも、「うちは貧乏になるの?」といきなり泣き始めた。小6のこどもでさえも農業は儲からないというイメージが浸透しているわけだ。
このような業界にわざわざ飛び込んでいく人はめったにいない。ましてや年収1300万円の大企業の管理職が、年収が2桁下がると言われながら参入してくるような魅力的な業界ではない。なぜ成功したのかを冷静に振り返ると・・・・
供給が減る業界は有望
どんなマイナスの現象も見方を変えれば、違った世界が見えてくる。「ピンチはチャンス」と捉えることができる。
まず先ほども述べたように農家の数は激減している。要するに供給が減っていくことを表している。日本人の人口はこの先減っていくが、在留外国人や訪日外国人はどんどん増えていくはずで、基本的に食料の需要はさほど減らない。
需要が減らないのに、供給が減っていく産業は、ビジネスチャンスがいっぱいだ。ましてや農業は参入障壁があるので、強力なライバルが存在せず、戦いやすい。
またさらに農業の中でも観光農園を選択すれば、“モノ消費ではなくコト消費”の時流に乗って、需要が減るどころか、大きく増える可能性が見込まれる。だからこれだけ成功しやすい業界は他にないのでは、とさえ思う。
農業ほど伸びしろのある産業はない。
農業の世界に飛び込んで感じるのは、他の業界で当たり前にされていることが何一つされていないということ。農業が成長できない問題点はあげればキリがないが、あえて3つあげると次にようなものだ。極めて低い生産性と収益性、マーケティングの発想がない、そしてお客様の顔が見えない、という3つだ。
ひとつひとつについては、ブログでまた詳しく述べるが、他の業界で問題点を改善して、しのぎを削って競争しているのに比べて本当にぬるま湯の世界といえる。行政が補助金などで手厚く保護してきた結果でもある。
ただ逆に言えば、何も手が付けられていないわけだから、他の業界で当たり前のことを当たり前にやりさえすれば、上手くいく。相当な伸びしろがあるのが農業だ。先ほどの3つの問題点の逆をやればいいわけだ。要するに人海戦術に頼らず効率的に、プロダクトアウトではなくマーケットインの発想で、お客様とつながる農業を展開していけば、上手くいくわけだ。これは他の産業では当たり前で、そんなに難しいことではない。

前職の経験が生かれる。
“点と点が線でつながる”とはよく言ったもので、メーカーの事務系サラリーマンからまったくの異業種である農業に転身して、この言葉の意味がよくわかった。私が経験を積んできた分野は、一言でいえば、生産性や収益性を高めるためのIT化、システム化・仕組化だ。
農業の世界に足を踏み入れると、効率化や改善できるところが満載で、前職で培ってきたことを応用して自分のやりたい農業に組み込んでいった。そうしたら営業日が60日余りであるにもかかわらず、年収が2000万円も稼げる、これまでの農業にはない極めて生産性の高い農業に仕上がった。
私の場合は、大企業のメーカーの事業企画という職種で、常に売上利益の最大化を至上命題として、仕事に取り組み、そのキャリアが生かされた。人それぞれ、これまで経験して培ってきたキャリアは違う。そのキャリアを農業の中に新しい風として吹き込んでやることで、それぞれ個性的な唯一無二の農業に仕上がっていくに違いない。
持っていないものは、後から学べば十分。
当たり前だが、オールマイティにキャリアを積んでいる人はほとんどいない。当然、身に付けていない、足りないスキルはいくつもある。
ただこの辺は、後から学べば十分。私の場合は、パソコンは使い慣れていたが、インターネットの世界はまったく未知の世界だった。また会社がB to Bだったため、集客ということも経験がなかった。もちろん農業も未経験だったので、農業、ネット、集客については、後からしっかり学ばせてもらった。足りないものは、起業する前に学べればそれに越したことはないが、起業してから目的意識をもって“後から学ぶ”で十分間に合う。
大好きな農業を仕事にしたことが、成功した最大の要因。
いろいろ上手くいった要因を述べてきた。農家半減、高齢化などでライバル不在、当たり前のことが何も手を付けられていないこと、前職のキャリアが生かされたこと、、、などをあげてきた。ただこの辺は、あらかじめ予見できて、戦略的にビジネスを考えて進めてきたなら、誇らしいが、そうではない。あくまで現時点で振り返ってみると、「こういうことだった」ということであって、多分に後付けの理由に過ぎない。
そう考えると、やっぱり成功した要因をひとつ上げるなら、『「お金」ではなく、「好き」という気持ちを大切にして、大好きな農業を仕事に選んだ』ことだ。
好きな仕事が私の人生を好転させた。
サラリーマン時代の仕事は、どうしても「やらされ」感がある。報酬を得るわけだから仕方がないところだ。それが、「好き」なことで起業すると、モチベーション、ヤル気がまったく違う。ヤル気スイッチがオンになるからだ。
私は、講演やセミナーの冒頭で次のような話をしている。「好きなことが、サラリーマンとして行き詰まり、うつ病寸前だった僕に自分らしさを取り戻してくれました」「好きなことが、“どうせ無理”と自分の中で蓋をして眠らせていた才能と情熱を目覚めさせてくれました」と。
そんなわけで、好きなことを仕事にしたことで、私の人生は一気に、かつ劇的に好転して幸せで充実した人生を送ることができるようになった。サラリーマン時代とは比べものにならないほど経済的にも精神的にも時間的も豊かさを手に入れることができた。
